『サルと屋久島』刊行によせて

『サルと屋久島 ヤクザル調査隊とフィールドワーク』
刊行によせて

2018年12月に発売されたヤクザル調査隊調査開始30周年を記念した書籍『サルと屋久島 ヤクザル調査隊とフィールドワーク』。著者松原始氏と半谷吾郎氏に刊行にあたって、本書の紹介をご寄稿いただきました。

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松原始

松原始、2000年、フェリー屋久島2にて。

ヤクザル調査隊は1989年より、屋久島に住むニホンザルであるヤクシマザルの生態を調査し続けてきました。この調査隊には山極寿一をはじめ研究者が多く関わりましたが、学生たちが自主的に運営や研究を担いながら続けてきた調査チームでもあります。現時点で参加者はのべ1364人にのぼりました。
また、その成果はヤクシマザルの個体数推定や保全へのコミット、ほとんど調査されていなかった屋久島山頂部までの連続的な分布実態の解明、そして屋久島上部域のニホンザルの個体群動態の追跡調査と多岐にわたっています。

航路から見た屋久島の全景(1996年)

本書の特徴は、学術的な成果を紹介するのみならず、調査員の目から見た現実、現場視線の「ヤクザル調査隊の様子」が描写されていることです。サイエンス・ノンフィクションでありながら、一種のアウトドアエッセイ、冒険物語としても読むことができるでしょう。等身大の若者たちがたゆまず積み重ねてきた努力が、一つの科学的成果へと昇華する瞬間―それも本書のテーマであり、それこそがフィールドワークと研究の真の姿です。

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半谷吾郎

半谷吾郎、1995年、屋久島・宮之浦港にて。

世界自然遺産の島、屋久島は、2000メートル近い標高差に応じた植生の垂直分布を、その最大の特徴とします。亜熱帯性植物の混じる低地の照葉樹林から、中腹にある樹齢数千年のヤクスギの巨木の森、山頂部のヤクシマヤダケ草原まで、その多様な環境のすべてに、ニホンザルが暮らしています。ヤクザル調査隊は、屋久島のニホンザル分布の解明を目的として、1989年に結成されました。

1992年、屋久島・永田から見る朝日。

この調査隊では、プロの研究者だけでなく、ボランティアで参加した学生が運営の中心となり、マンパワーを最大の武器として調査してきました。1990年代に、屋久島全域のニホンザル分布を明らかにし、その後、西部のヤクスギの森に長期調査地を設置し、個体数変動の調査を継続しています。30年に及ぶ調査を通じ、ニホンザルの社会が、長期に渡ってどう変動しているのか、世界的にも貴重なデータを蓄積してきました。本書は、この調査隊の歴史を、霊長類学者であり現在の調査隊の事務局を勤める半谷吾郎が、調査のエピソードを、元調査隊メンバーで現在は鳥類学者の松原始が執筆しました。

著者(半谷吾郎)ホームページ: http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/shakai-seitai/ecolcons/hanya/
ヤクザル調査隊ホームページ: http://yakuzaru.php.xdomain.jp/index.htm

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1993年の調査時、台風の影響で川のようになった林道。

定点に現れたサル、1994年、屋久島。